DAOの魅力と今後の展望

DAOの世界へようこそ (Part. 1)


最近、DAO(Decentralized Autonomous Organization、分散型自律組織)は急速に人気を集めています。2022年初めには約4,000ものアクティブなDAOがあり、過去2年間でさらに多くのDAOが設立されました。そして注目すべきはDAOの数だけでなく、その大きな影響力です。2021年11月には、ConstitutionDAOがアメリカ合衆国憲法の原本をオークションで競り落とすために、わずか1週間で4700万ドル以上を集めるなど、資金調達の方法としてもDAOは大きな話題となっています。

DAOはアイデアを実現するための力、活気、そして意志を持っているように見えますが、具体的にはどんな組織なのでしょうか?日本語で言うと「分散型自律組織」ですが、この言葉だけで理解できるでしょうか?この組織はどの程度分散化されていて、自律的なのか、またこの構造によってどのような問題が解決され、利用する際にはどんなメリットとリスクがあるのでしょうか?

DAOの定義はたくさんありますが、私が聞いたことがある中で最も良いと思った定義の1つは「コミュニティウォレットを持つグループチャット」というものです。

この定義は、「人々がデジタル空間や対面で集まり、プロジェクトに参加し、資金の配分について投票する」というDAOの本質を簡潔に捉えています。


上のDAOでは、ペットを飼うという決定に3票のうち2票が投じられ、ゲームの購入ではなく、ペットのために資金を割り当てることを選択しました。



DAOの特徴

仕事や資金の調整を行う仕組み自体は、必ずしも新しいアイデアとは言えません。まさにそれが企業が創られる理由でもあります。では、DAOが今までの仕組みと違う点は何でしょうか?


プログラマブル マネー = プログラマブル インセンティブ

(プログラマブル:ソフトウェアやシステムなどの動作を利用者が必要に応じて変更したり自動化したりできること)

多くの経済学者は「効率的市場」について言及します。「人々が合理的かつ利益を追求すると仮定すると、行動はお金の流れる方向に向かう」という考え方です。

もし人々が金銭的なインセンティブによって動機づけられ、暗号通貨がプログラム可能な通貨であるならば、web3によってインセンティブをプログラミングできることになります。DAOは、これを繰り返し実現するための組織的な枠組みを提供します。

最も分かりやすい例は、公開のバウンティボードを持つことです。DAOは行うべきタスクとそのタスクに対する報酬をリスト化します。誰でもバウンティボードを見つけ、タスクを行い、完了したことがDAO管理者または自動的に検証された後、報酬を請求できます。これはDAOトークン、ステーブルコイン、ETHなど、価値のある通貨で支払われることがあります。

(バウンティボード:クリエイターがダッシュボードから直接スポンサーシップの機会(バウンティ)を閲覧し、タスクを完了し、報酬を請求できる機能)

これは一見普通のことに思われるかもしれませんが、プログラム可能なテクノロジーの性質とその応用性を考慮すると、私たちはよりクリエイティブな方法で価値を引き出すことができます。例えば、通常報酬を得られない”ソフト”な行動に対して報酬を与えることができるのです。例えばこんな行動が考えられます。

  • コミュニティでの助け合いや活動への貢献(例:Discordやグループで活動したユーザーのリーダーボードを持つボットを保有する、トークンを上位3人に配布するなど)
  • 会議の議事録の作成やサマリーの送付
  • 最終的に選ばれたアイデアの提案
  • オープンソースコードへの貢献


また、岩手県の紫波町など、町全体でDAOに取り組む動きが生まれている地域もあります。これにより、市民はリサイクルやボランティア活動、ゴミ拾いなど街の清掃活動に対する報酬をより明確な方法で受け取ることができます。


“コモンズの悲劇”を考慮したインセンティブ構造

この新しいインセンティブデザインによって、”コモンズの悲劇 “の影響を受けやすい公共財の維持に報酬を与えるなど、コミュニティが求める行動を促進することができます。

💡 “コモンズの悲劇とは、誰もが利用できる資源が無秩序に利用されることで、結果として枯渇する、という法則である。 個が自分の利益を最大化するために合理的な策を選んだ結果、全体ひいては個にとって悪影響が及ぶ。この法則は、アメリカの生物学者であるギャレット・ハーディンが論文 「コモンズの悲劇」(1968)で提唱した。コモンズ(Commons)とは共有物の意味である。” ー グロービス経営大学院

公共財は、非競合性と非排除性という特性を持っています(Stanford Encyclopedia of Philosophyの下表を参照)。そのため、合理的な人々にとっては、公共財を維持するために自らの時間やエネルギーをかけようとは考えません。それにもかかわらず、これらの公共財は社会に非常に大きな価値をもたらしています。

過剰漁業は、共有の水域で人々によって利用され、乱用される「コモンズの悲劇」の典型的な例です。時間の経過とともに、魚の個体数の再生速度を消費速度が上回る可能性があり、それが結果的には魚の絶滅につながることがあります。


特徴競合性非競合性
排除性私的財(自宅、バスルームクリーナー)準公共財(スポーツクラブ、映画館)
非排除性共有資源財(水産資源)公共財:地域的(防火)、国家的(国防)、国際的(気候変動緩和の実践)、部分的(パレード)

行政サービスは公共財の劣化を緩和するためによく利用されます。しかし、多数の公共財の需要を満たすには資源が少なすぎるため、努力も資本も枯渇してしまうケースが多く存在します。例えば、日本では「空き家」問題があり、2030年までに約3軒に1軒の家が放棄されると予想されています。こうした長期にわたる社会問題において、民間企業からの市場取引機会がなく、不動産資産価値が時間とともに減少する中、DAOはコミュニティ志向のプロジェクトに適したモデルとなる可能性があります。

後で詳しく掘り下げますが、「AKIYA」は日本に拠点を置くDAOのような組織です。彼らのミッションは、放置された家を分散型かつ共同統治される創造的な居住スペースに変え、地域の活性化とまだ利用されていない資源の共同利用に焦点を当てています。

公共財は、責任の分散と信頼の欠如が原因となっている難しい課題です。特に信頼の欠如に関しては、自分たちをリスクに晒し続けることで搾取される可能性を感じることもあります。「なぜ誰も参加していないものを保存しようと努力しなければいけないのか?」と疑問に思う人もいるでしょう。対話型の教育的なウェブゲーム「The Evolution of Trust」は、ゲーム理論と信頼の概念を示しています。

信頼のある社会に暮らすと、自分自身が大切にされていると感じるため、他人に何かをしてあげたいと思うことが増えます。都市が発展していくにつれて、周りにいる人全員を知ることは難しくなりますが、信頼と統一を維持することは果たして可能なのでしょうか?


技術を活用した社会貢献

DAOが解決しようとする大きな問題の1つは、テクノロジーを活用し、”匿名性”と”信頼性”の分離を可能にすることです。

現代の例として、ライドシェアアプリが挙げられます。以前は、一般の人々がランダムな人の車に乗り込んで、安全に目的地に到着することは不可能でした。しかし、プラットフォーム、認証、評価システム、報告/フィードバック機能があることによって、多くの人々はタクシーと同じように頻繁にUberを利用するようになりました。

Uberは、乗車を提供して収入を得たい人々と、交通手段にお金を支払う人々との間のギャップを減らすことで、私たちの交通観を変えました。共通の関心を結びつけることで、このプラットフォームは仲介役として、両者が目標を達成できるようサポートします。アプリ外でドライバーを個人的に知らなくても、アプリの信頼性と目的地への時間通りの到着に対する信頼があることで十分に機能するのです。


Uberは、運転手(交通提供者)と乗客(交通利用者)が、互いに顔見知りでなくても、また互いに信頼関係がなくても、取引を行うことができる安全な環境を提供しています。このプラットフォームは、取引をスムーズに進めるために双方が依存する信頼性のある架け橋として役立っています。


こういった意味では、”匿名性”と”信頼性”は分離されています。人を信頼する必要はなく、単にプラットフォームを信頼すれば十分ということです。それにより、”運転手”と”乗客”両方の価値が向上します。

Uberの例をもう少し広げると、DAOにおいては、運転手と乗客の両方が金銭的な利益とガバナンス権を与えられることになります。

  • 金銭的リターン:DAOの貢献者として、運転手はトークンで支払われる可能性があり、これは企業におけるマイクロ株式を表します。会社の価値が上昇すると、トークンの価値も上昇します。企業が拡大した時には、ユーザーはトークン、現金、またはその両方の選択肢で支払いを受け取ることができ、この点においても自身の裁量を持つことができます。
  • ガバナンス権:歴史的に、ライドシェアの運転手は低賃金で、企業は運賃の最大50%を徴収しています。DAOのようなシナリオでは、メンバー(つまり、運転手)は賃金(またはトークン)の増額についての提案を作成し、同じ価値観を共有する人々を集め、関係者(財務的なステークホルダーだけでなく、運転手、利用者、その他の関係者)が投票できます。規定が変わることを切実に待っている必要はありません。


以下の表には、他の課題とその解決策が示されています:

課題DAOの解決策
中央集権的な意思決定中心のリーダーシップなしで運用可能(分散化)
企業を立ち上げる際のインフラの障害ライトな構造(承認や規制を待たずに、1日でDAOを立ち上げることも可能)
コモンズの悲劇DAOは共有財の維持に対して特別なインセンティブや報酬システムを作成できる
協調する前に信頼が必要匿名性と信頼性の分離



考えられる疑問

DAOは多くの課題を解決できるのであれば、なぜ広く採用されていないのか?なぜ、組織における通常の構造になっていないのか?ここまで読んでいると、多くの方が疑問に思うかもしれません。


新しい技術が導入される際、しばしばインフラは十分に強固でなく、人々(特にハッカー)がシステム内の抜け穴を突く可能性があります。DAOは多くの社会的利益を生み出す手段として使われる一方で、それを悪用する人々も現れるでしょう。

最初は、どのDAOにおいても初期のメンバー間での信頼関係が必要です。通常、DAOが最初に作成される際、創設者は資金を預けるためのウォレットを作成する必要があります。誰かがスマートコントラクトコードを審査すれば、タスクを完了した人に確実に支払いが行われることを確認できますが、資金の管理者が資金を持って逃げる可能性も常にあります。特に創設者が匿名の場合、匿名のユーザーは魅力的な話を作り上げ、人々に自分たちのトークンを購入させ、その後、実際の法的な制約なしにプロジェクトを放棄する可能性があります。

プログレッシブな分散化は、DAOの基本理念において強力な役割を果たします。時間が経つにつれて、より多くの資金が預けられると、そのDAOに投資をしたグループ内の人々がマルチシグウォレットを作成します。このタイプのツールでは、取引を承認するためにクォーラム(5人の信頼できる署名者のうち3人)の署名が必要です。そのため、アクセス権を持つ個人が全額の資金を自身の個人ウォレットに移動させることはできません。

その反面、DAOは急速に分散化する可能性があるため、基本的な使命や理念から逸脱し、最終的には共通の目標達成を妨げる過度の分断を招きかねません。組織化された目標を見失わないことは、より良い連携と協調を促進するためには極めて重要です。目標の維持と新しい価値観に対する柔軟さのバランスと、それぞれがどの程度まで強要されるべきかの微妙なバランスも求められます。また、”トラスト”、書き込みアクセス、またはマルチシグ権限が、プロジェクトに興味を持っているように装った悪意のある参加者やボットに、あまりにもすぐに与えられる可能性があります。

前述のように、DAOは革新的な価値獲得の可能性を提供し、インセンティブ構造の実験的枠組みとして機能する一方で、暴力やネットいじめを含む有害な行為を促進し、それに対して報酬を与えてしまう可能性があることに注意する必要があります。これは、DAOが下す意思決定が、個人や広範な社会の見解ではなく、メンバーの集合的な意図を反映するという、分散型の性質を持つためです。



DAOの未来

人間はすべての人と完璧に協調できるわけではありません。常にビジョン、価値観、倫理観に違いがあり、これらの調和を試みれば意見の対立や価値観の不一致が生じる可能性があります。そして調和に失敗すると、戦争や暴力、さまざまな苦しみが生まれてしまいます。

しかしながら、DAOは私たち自身が作成できるライトな構造であるため、インセンティブ構造を共同で改良し、一体となって学び、社会にとってより効果的な動機付けを作り上げる道は豊富にあります。ブロックチェーン技術のユーザーエクスペリエンスはまだ発展途上の段階にあり、その包括性とアクセシビリティが高まるにつれて、ブロックチェーン技術は普及していき、より強靭なインフラが生み出されます。これにより、ユーザーを保護し、影響力を行使する人々に説明責任と責任を負わせることができます。

私たちには、誰もがいつでもDAOを始めることができるツールが手元にあります。必要なのはアイデアと探究する意欲だけです。おそらく複雑な側面は、未知の参加者同士との連携や、共通の利益に対するリスペクトという文化的側面です。これらの要素は人間の心理に深く根ざしているため、順応しにくいでしょう。

しかし、日本のユニークな特徴の1つは、協調性です。社会契約に対する明らかな信念と尊重があります。これは、web3のような技術がこの国で受け入れられる可能性を示しています。言い換えれば、それは本能的なものです。

日本の駅のプラットフォームは、日本人が社会契約を守っている最たる例です。駅自体は混雑していて混沌としているにもかかわらず、皆が秩序を保ちながら整然と並び、電車に乗り込んでいくのです。


このように文化的に有利な基盤があることもあり、日本は全国的に暗号通貨の導入を積極的に推進しています。与党である自由民主党は、ビジネスのハードルを軽減し、業界の成長を支援するためにの戦略をまとめた包括的なホワイトペーパーを発表しました。DALは今年初め、東京でローカルDAOイベントを開催しました。地元の政府機関、日本のDAO、そしてweb3のリーダーが集まり、現在進行中のプロジェクトやイニシアティブについて議論しました。規制が策定されている現在、より適切な法律と政策の文脈を把握するために、実際のDAO事例を理解する必要があります。

変化は個々の関係者の要望から発生することが多いですが、それが規制や政策といったトップダウンの取り組みと結びつくことで、より効率的な妥協点を見つけることができます。

DAOの潜在的な可能性は、信頼に欠けるエージェント間の仲介を円滑にするテクノロジーを生み出したり、インセンティブメカニズムの新しいデザインを模索したりする能力にとどまりません。それは、グローバルに本質的な信頼を育む力、すなわち、統一された集団として協調し、共感し、協力する能力を高める力にあります。人間の多様性は弱点ではなく、より多くの世界を観察し経験できる強みであり、強固な解決策につながります。

ブロックチェーンは、潜在意識をプログラミングするための最も先進的な技術です。DAOは私たちの信念や価値観を具現化する存在で、それらを大切に育て、一緒に成長させていくことが重要です。



DAOの本質は参加、統治、共同活動にあります。そのため、web3の領域に精通した人から、まったく初めての人まで、あらゆる意見が重要です。

私たちは、以下のコミュニティ内で議論に参加できる場を提供しています。自由に回答を追加したり、この記事を引用ツイートする際に「#DALDAODiscussion」とタグ付けしたりして、ぜひご意見を共有してください。

状況は常に変化しています。これは、あなたが議論に参加し、DAOの未来を一緒に形作っていくための招待状です。


ディスカッションの質問

  1. どんな組織は分散化されるべきで、どんな組織は中央集権型のまま保つべきでしょうか?
  2. web3が主流になると、web3はより便利になっていくと思いますか?もしそう思う場合、次世代のweb3ユーザーに参加してもらう方法はどんなものが考えられますか?
  3. 様々な組織や構造(協同組合、法人、共同生活、労働組合など)が存在しますが、あなたは、DAOがどの構造からインスピレーションを得るべきだと思いますか?




Michelle Huang is a creative technologist and founder of Akiya Collective. She is a facilitator, researcher, and web3 consultant at DAL (michellehuang42@gmail.com)

Translation: Yudai Kachi & Madoka Tachibana
Illustration: Asuka Zoe Hayashi

More from DAL Blog

上手くいったこと、上手くいかなかったこと、そしてこの挑戦から学んだこと。
DALのコミュニティリードが、多様なチームを超えた同僚同士のつながりを深め、sense of belongingを育むことについて考察する
急速に発展する時代において、技術の進歩と人間の主体性のバランスを探る。
×