NSITのためのヘッドレス・ブランディング初挑戦

上手くいったこと、上手くいかなかったこと、そしてこの挑戦から学んだこと。

以前に投稿した、デザイン・ブログでは、Henkakuの原則をDALのデザインに実際にどのように適用できるかを探り、ポートフォリオからいくつか例を紹介しました。記事の最後では、当時のデザインパートナーであるPentagram (ペンタグラム) が「Towards Henkaku」レポートで今後の探求領域として言及した「ヘッドレス・ブランディング」という概念についても少し触れました。

このブログでは、私が最近関わった東京のニューロダイバーシティスクール(NSIT)のプロジェクトにおいて、ヘッドレス・ブランディングの原則を適用した経験を振り返ります。この挑戦で何が上手くいき、何が上手くいかなかったのか、そしてこの挑戦から学んだことについて振り返ります。

ヘッドレス・ブランディング

従来のブランディングには、一貫性が求められます。Koto Studio (コト・スタジオ) の引用にあるように:

ブランドとは結果であり、心の中に確立され、時間をかけて構築されるものです。繰り返される行動は強力なパターンを生み出し、人々の心はパターンを好みます。パターンが明確であればあるほど、ブランドはより認識されやすくなります。

対照的に、ヘッドレス・ブランディングは、より包括的で参加型のアプローチを目指しています。この方法は、幅広く多様なユーザーコミュニティの貢献と関与を促し、受け入れることで、人々がブランドのアイデンティティや方向性に対して所有感や影響力を持つことを可能にします。

Pentagram (ペンタグラム) が「Towards Henkaku」のレポートに書いたように:

このような意味では、Henkakuを一つの方法に過度に明示的に「ブランディング」しようとする概念自体が的外れになります。デザイン分野における現在のトップダウン型のブランディング手法は、ブランドの視覚的アイデンティティをどのように実世界で実装すべきか(あるいはすべきでないか)を詳細に定めたスタンダードマニュアルに依存しています。
一方で、Henkakuにおいて探求できるのは、いわゆる「ヘッドレス・ブランド」という概念です。これは、ガイドラインのような一元化された中央集権的な真実の源を持たず、むしろ共有されたグラフィックの語彙を自由に展開、適応、リミックスできる概念を指します。ある程度の標準化が必要な場合もありますが、「ヘッドレス・ブランド」は最終的にはユーザーコミュニティによって管理され、維持されていくものです。

Pentagram (ペンタグラム) はさらに次の例を用いてこの概念を説明しています:

1. アルゴリズム主導
生成ロゴは、グラフィックデザインとクリエイティブテクノロジーの境界を曖昧にします。例として、4万通りのバリエーションがある旧MITメディアラボのロゴ、データ駆動のパラメータに基づいて渦巻く地球を視覚化したCOP15のロゴ、そしてブロックチェーン技術を連想させる「フロッキング」の線分を使用したBreaker (ブレイカー) のロゴがあります。

2. コミュニティ密着型
いくつかの生成ロゴは、データを意味のある形で活用し、物語や感情を伝え、ユーザーコミュニティを垣間見せるものです。例として、Playwrights Horizon (プレイライツ・ホライズン)のロゴ、ユーザーポートレートを使用したClubhouse (クラブハウス) のロゴ、そしてレフィーク・アナドールによるウォルト・ディズニー・コンサートホールのプロジェクションマッピングがあります。

3. カスタマイズするためのフレームワーク
標準化された要素を備えたデザインフレームワークは、視覚的な一貫性と変動性を可能にします。National Open Youth Orchestra (ナショナル・オープン・ユース・オーケストラ)The Q Project (ザ・Q・プロジェクト) はこのアプローチの好例であり、And Repeatによる「Abstract Type Generator(アブストラクト・タイプ・ジェネレーター)」は、モジュラーな語彙を生成するカスタムソフトウェアの可能性を示しています。

4. データポートレート
「データポートレート」とは、個人データの複合的な画像であり、人間のアイデンティティの交差的な性質を表すことができます。例として、ニューヨーク市博物館での「What Counts(ワット・カウント)」インスタレーションや、2017年のTEDカンファレンスでのパーソナライズデータの可視化があります。

方法論のレベルでは、ヘッドレス・ブランディングは、データを視覚化するためのフレームワークに要約され、その結果としてデータ入力の複数のバリエーションが生まれますが、それを私たちは単一でパーソナライズされた、しかも一貫性のあるアイデンティティとして認識します。このアプローチがうまく実行されれば、ブランドの核となる本質を維持しながらも、ブランド表現においてより大きな柔軟性と適応性を実現する可能性があります。

ケーススタディ:NSIT

2024年9月に開校した東京のニューロダイバーシティスクール(NSIT)は、子どもたち一人一人の唯一無二の可能性を育み、多様性を尊重し、革新的な実践を通じて教育と社会を変革することを目指す先駆的な学校です。DALのチーフアーキテクトでもある伊藤穰一が率いるこのプロジェクトは、新しい学習方法を通じて教育を改善し、社会の視点を変えることを目指しています。ヘッドレス・ブランディングの原則に基づいて進められたNSITのブランドアイデンティティの開発には、チームの協力が不可欠でした。ブランドデザイナーとして、私はNSITのビジュアルアイデンティティの概念化と制作に関わり、学校の使命と理念を反映するものとなるよう努めました。

ニューロダイバーシティとは?

ニューロダイバーシティとは、脳や神経系から生じるさまざまな特性の多様性を個人レベルで認識し、尊重するという概念です。この違いを社会の中で活かし、相互尊重を促進することを目的としています。ニューロダイバーシティは、個人、コミュニティ、社会、そして世界の幸福にとって重要であり、社会や世界を前進させる哲学として機能します。
誰もが一定の独自の能力を持っています。私たちは、個々の知性を育成することが、創造性を拡大しようとする社会にとって重要な価値であると信じています。

ニューロダイバーシティの概念は、ヘッドレス・ブランディングの原則とよく一致しています。両者とも、異なる思考や自己表現を重視しています。ヘッドレス・ブランディングでは厳格なルールを設けず、人々が自分の視点を反映させながらブランドを適応させることを可能にします。これは、ニューロダイバーシティが異なる思考を称賛する方法と一致します。実際には、ブランドを形作るために様々な意見を取り入れることを歓迎し、ブランド要素を柔軟に使用し、創造的で個人的な解釈を奨励することを意味します。その結果、実際にコミュニティを反映したブランドが生まれます。私は、NSITのアイデンティティのデザインプロセス全体でこれらのアイデアを用い、ニューロダイバージェントな体験の多様性を受け入れ、表現する視覚言語の創造を目指しました。

私たちは、NSITのブランドアイデンティティの探求を、子どもたちがどのように世界と関わり、理解し、学んでいるかについて考えることから始めました。これは生きた体験であり、形を変えながら続いていくものです。私たちは自問しました:子どもの成長の波を反映する自然なリズムとは何か?この世界との絶え間ない交流を捉える普遍的な人間の体験は存在するのか?この問いの結果、私たちは「呼吸」という概念にたどり着きました。

そこで、呼吸がNSITのブランドアイデンティティの基本的なモチーフとなりました。呼吸は私たちの生命に不可欠であり、動的で循環的です。呼吸は、外の世界と相互作用するプロセスであり、外から取り入れたものを内に表現します。それは常に動き、自然に拡大、収縮し、形を変えていきます。このプロセスは、子どもたちが環境と関わり、情報を吸収し、成長していく様子に類似していると私たちは考えました。

このモチーフに基づいて、私は5つの主要なオブジェクトを作成しました。これらを重ねたり、動かしたり、組み合わせたりすることで、子どもたちのダイナミズムと多様性を表現しました。これらの異なる形と色の5つのオブジェクトは、彼らの無限の可能性を象徴しています。最初のプランは非常にシンプルでした。私は自問しました:「呼吸から5つの主要な要素を作り、それらを異なる組み合わせでまとめて何かを表現できるだろうか?」

このアプローチは、ヘッドレス・ブランディングの精神を体現しています。この理論においては、より広範な個々の特性を受け入れ、捉えることが可能になります。これらの要素を組み合わせる柔軟性は、ニューロダイバーシティで称賛される適応性と個性を反映しています。


しかし、デザインをさらに発展させる際に、いくつかの課題に直面しました。この概念的アプローチを一貫したビジュアルアイデンティティに翻訳するプロセスは、想像以上に複雑な作業であることが判明しました。

課題

課題1:統一されたビジュアルを作り出すことの難しさ
一つのロゴではなく、さまざまな表現が揃った今、すべての異なるビジュアルがNSITとして認識されることを確実にする必要がありました。さらに、独自のビジュアルを持っていても、長期間にわたって一貫してコミュニケーションを行うことが、人々との信頼を築くためには必要です。この初期の創造段階でそれを達成するのは、容易なことではありません。

課題2:デザインを実践に移すこと
多くの組織は、時間や人的資源の不足に直面しています。美しく実行されたデザインを作成するための十分な時間を持っている組織は少なく、スタッフにデザイナーの専門知識を持つ組織も限られています。また、デザイナーが多くのバリエーションや表現を慎重に計画しても、それを実世界で実装することは難しい場合があります。特に、デザイナーが各デザインを手動で実装しなければならない場合や、各デザインの統合に多くの時間がかかる場合、すべての場面に異なるアイデンティティを持つことは必ずしも最良の解決策ではありません。

課題3:実装には多大なリソースが必要
前述の問題を解決する一つの方法は、データ入力に対応したデザインを自動的に生成できるツールを作成することです。このアプローチはデザイナーの効率を向上させ、デザイナーではなくてもデザインを制作することを可能にします。しかし、そのようなツールを作成するには、アルゴリズムの計画、数学、データを最終的なデザインに結びつけるためのコーディングなど、専門的な知識が必要です。これもまた、多くのチームが負担できるものではありません。ここで優先順位の問題が浮上します。アイデンティティを導き出すためのツールを作成する方が、アイデンティティ自体を作成するよりも多くのリソースを要する場合、このアプローチを依然として実行可能と呼べるのでしょうか?


進行中の挑戦

デザインプロセスが進化する中で、私たちは最終的に、上記のいくつかの課題により、現段階ではNSITにヘッドレス・ブランディングのアプローチを完全に実装しないことに決めました。しかし、将来的に必要であればそれを取り入れる余地を残しました。

情報やアイデンティティを表現するために要素を組み合わせるのではなく、この改訂されたアプローチでは、各要素をより直接的に使用して呼吸の概念を伝えます。要素をよりシンプルに使用することで、一貫性があり認識しやすいブランドアイデンティティを創造しつつ、柔軟性や将来的な適応を可能にすることを目指しています。

最終的なデザインはNSITのウェブサイトで見ることができ、個々の要素が結集して一貫したブランドイメージを形成している様子が示されています。このアプローチは、将来のフェーズやキャンペーンでヘッドレス・ブランディングの原則をさらに探求する余地を残しています。
私たちは、ブランドのコアアイデンティティと主要な要素を保持しています。この基盤により、将来的にこれらの要素をさまざまな方法で組み合わせることで挑戦を可能とし、初期のビジョンに沿った形で進むことができます。ロゴを確立した今、次のフェーズや今後のキャンペーンにおいて、ヘッドレス・ブランディングの原則を使用したアプリケーションのデザインと実装を行うための準備が整っています。

最後に

ヘッドレス・ブランディングをデザインプロジェクトに適用したいと考えている読者のために、学んだことや経験したことについて私の考えを共有いたします。

  • ヘッドレス・ブランディングを実行するためには、挑戦に前向きで、献身的なチームが必要です。なぜなら、計画から実行までに多大な時間とリソースが求められるからです。このアプローチには、複数のデザイナーや開発者が必要であり、ブランドを磨き上げるまでには、長い時間が必要です。したがって、すべての規模のチームに適したデザイン手法であるとは限りません。
  • ヘッドレス・ブランディングは、本質的にデータを視覚化するためのフレームワークに基づいています。データ入力はこのフレームワークを通じて複数の視覚的出力に変換され、私たちはそれをパーソナライズされたアイデンティティとして認識します。データの視覚化において、フレームワークが考慮する差別化と一貫性が、それぞれのアイデンティティをユニークにしつつ、ブランドとして全体的に認識できるようにしているのです。
  • ここで疑問が生じます。デザイナーが設計したのがフレームワークに過ぎない場合、デザインは本当に「パーソナライズ」されていると言えるのでしょうか? それとも、単にデータ入力に基づいてランダムに生成された産物なのでしょうか?
  • 一方で、ヘッドレス・ブランディングが提供できるのは、デザイナーとユーザーのより密接な関わりや、ユーザーが自分自身のロゴを持つことができるという点は、それ自体がブランディングの手法と言えるかもしれません。このアプローチは、ユーザーの間に強い帰属意識を生み出すことができます。もし相互作用がブランディングにおいて重要な役割を果たすのであれば、ヘッドレス・ブランディングは、従来のブランドよりも、カンファレンスのような短期間で高度にエンゲージメントを促すキャンペーンに適した方法かもしれません。こうした場面では、各参加者に対してユニークでパーソナライズされた体験を提供しながらも、統一されたブランドアイデンティティを維持することが求められます。



Soryung Seo is the Brand Designer at DAL (soryung@dalab.xyz)

Illustration:  Soryung Seo
Edits:  Janine Liberty & Joseph Park

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