DAO(分散型自律組織)は、効率的なガバナンスを実現する身軽な構造で、従来の方法で会社を設立する必要なく、資金の運用と管理のためのツールを提供します。また、法的な設立手続きや銀行口座開設、給与の支払に時間と労力がかからないため、誰でも、DAOを始め、参加者の働きに対して即座に報酬を支払うことができます。
💡 ここで強調しておきたいのは、DALは違法な活動を支持しません。例えば、実物の資産が関与する場合(例:在庫の所有など)は、法的な手続きが必要です。現在、日本ではDAOの合法的な形態を作る取り組みを進めています。
ただし、すべての活動がDAOである必要はありません。DAOには、注意が必要な重要事項がいくつかあります。この記事では、DAOを設立する一般的な手順、ツールのインフラ概要、DAOが成功するための最も重要な要素について解説します。
ステップ1:目標とミッションを定義する
最初のステップは、企業や組織を設立する際と同様、共同の目標を設定することから始まります。DAOの場合、多様なメンバー間の調和が必要(特にお互いを知らない場合)かつ匿名で働くコントリビューターもいるため、メンバーが共同で取り組むことができる一貫した目標を持つことが鍵となります。
💡 DAO内での意思決定プロセスは、投票(提案)と行動(提案の実行)を通じて本質的に分散化されています。コントリビューターが共有された過去の文脈や相互信頼を欠いている可能性を考慮すると、彼らがDAOのインフラが構築されているツールやプラットフォームを信頼することが必要不可欠です。
この記事の後半で詳しく説明しますが、DAOが必要とするツールとインセンティブの構造は、そのDAOが達成したい目標やミッションによって決まります。DAOファンドは財務面のセキュリティに重点を置く一方、コミュニティDAOはより多くのコンテンツやフォーラム投稿、交流を深める手段が必要です。多くのDAOはハイブリッド型になるかもしれませんが、少なくとも最初の段階は合理的かつ明確なミッションを持つことが重要です。このミッションは、他のすべての要素が構成される際の中核的な土台となります。
DAOを設立する前に考慮すべき重要な点は、プロジェクトの目標を達成する上でDAOが本当に必要かどうかを検討することです。ある面では簡単でシンプルですが、法的な問題、実世界での資産の所有、組織内で奨励すべき適切なインセンティブの定義など、課題が伴います。これらの要因は、運用や規制面をより複雑にする可能性があるため、DAOの設立が最良の方法かどうかを十分にリサーチし適切に判断することが重要です。
ステップ2:カルチャーと適切なインセンティブを設計する
一般的に、DAOのインセンティブデザインとシステム構造はそのカルチャーによって形成されます。。真の民主主義のように機能するのか、それとも慈悲深い独裁制のように機能するかは、そのDAOのカルチャー次第なのです。
💡 設立時の定義によるかもしれませんが、カルチャーは最終的に参加者から生まれるもので、それがガバナンス構造と分散化または自動化の程度にも影響を与えます。極端な場合、DAOの運用はお互いに連携するようプログラムされたスマートコントラクトを介して完全に機械化されるケースもあります。
以前の記事で、web3によってインセンティブのプログラミングが可能になると述べました。プログラマブル*な契約がインセンティブを変える例として、DAOは「二次投票」と呼ばれるアルゴリズムツールを導入することで、数人の大口資本保有者に偏るのではなく、ステークホルダーの多様化を奨励し促進することができます。
(*プログラマブル:ソフトウェアやシステムなどの動作を利用者が必要に応じて変更したり自動化したりできること)
従来、Web2の世界では、ガバナンスにおけるパワーは所有する株式の量に大きく依存していました。つまり、1株保有すると1単位の投票権が得られます。反対に、DAOの二次投票では、所有するトークンの量に比例して投票権のパワーが減少します。これにより、より多様なステークホルダーの声が力を持つようになるわけです。
また、DAOは選挙などのプロセスを実施することも可能です。こうした場合、投票権は選んだウォレットやユーザーに委任され、彼らは自身のトークンを保持しながら、組織の代表として意思決定を行います。このような組み込まれたメタ構造により、知識を持った人々による投票が可能となり、「クジラ(whales)」と呼ばれるトークンベースの大部分を所有する人々が、意思決定を独占したり、自己中心的な方法でDAOの資金を操作したりすることを防ぎます。
これは一種のミクロポリティクスに似ています。特定の現職者から選ぶ代わりに、自分自身を含め、実質的に誰にでも投票を委任できます。評議会は人々が時間とともにコンテクストを追跡するのが難しいことがあるため、人気が高まっています。DAOは比較的迅速に進化する傾向があるためです。
💡 さらに、DAOは”稼いだ”トークンか、”購入した”トークンかによって、投票権の重みを変えることもできます。例えば、”稼いだ”トークンに、”購入した”トークンの3倍の投票権を持たせることもできます。これにより、実際にDAOに貢献しているメンバーがより大きな発言権を持つこととなり、プロジェクトに関する意思決定において、資金投資家が支配することは難しくなります。ただ、プロジェクトの資金調達や資本提供の面では、資金投資家は依然として重要な存在であることも覚えておく必要があります。
これはごく一部の例ですが、内在的な報酬システムとガバナンスシステムの柔軟性は、変化が起こる方法や、そのDAOのカルチャーが時間とともにどのように維持および改良されるかに大きな影響を与えます。固有の報酬システムとガバナンスシステムの柔軟性は、変化が生まれる方法や、カルチャーの維持と発展に大きな影響を与えます。
DAOはいくつかの基本的な原則や指針から設立することは可能ですが、メンバーによってカルチャーは常に進化していくことを心に留めておくことが重要です。100人のDAOと1,000人のDAOでは、全く違うように感じるはずです。組織が拡大するにつれて、個々の信頼は自然に減少し、本来のミッションへの共感や興味よりも利益を求める人々が引き寄せられるようになります。
ステップ3:トークンを作成する…あるいは作成しない?
さまざまな報酬システムを具体化した後に必要になるのは、報酬を分配するための何らかのメカニズムです。トークノミクスの世界へようこそ。例えばERC-20のように、ブロックチェーンにトークンを展開する際、創設者の手助けとなる多くのリソースがあります。ただ、ここでは技術的な詳細に踏み込むことはやめておきましょう。
では、どんなトークンがあなたのプロジェクトに最も適しているのでしょうか?ここでは、その疑問について深く考えていきます。最初に、次の4つの質問に答えられるようにしましょう:
1. どんなことにインセンティブを設けたいですか?
- これは前述のステップでのカルチャー設計の方法と関連しています。
- もしコミュニティとカルチャーに焦点を当てたい場合、自身のアイデンティティにも結びつけられるパーソナルアイテムとして価値を発揮する、非代替性トークン(NFT:Non-Fungible Token)が適しているでしょう。
- 財務的な流動性にフォーカスしたい場合は、代替可能トークンが適しています。
- 評判を重視したい場合は、譲渡不可能なトークン(NTT:Non-Transferable Token)またはエコシステムトークンが重要となります。これらはオープンマーケットで売却できない資産を示すために必要で、特定のウォレット内にとどまります。
2. 主要なステークホルダーは誰ですか?
- これはマーケット戦略、トークン発売の価格設定、そしてコミュニティ構築方法に影響します。
- ステークホルダーが主にビジネス的な顧客である場合、より高い価格プレミアムや、より多くのカスタマイズ、ホワイトグローブサービスの活用も考えられます。
- ユーザーベースが個人で構成されている場合、一般的なコミュニティの結束、ガバナンス、エンゲージメントに焦点を当てることが重要です。
3. プロジェクトを財政的に維持する方法は何ですか?
- もし大部分の収益がトークンの価格上昇に依存している場合、供給量の制限がより理にかなっているかもしれません。
- 現実世界でのメリットや販売を最大化するためには、持続的なトークンの分配や、トークンや会員権の季節ごとの販売が、既存の資金を活用しながら勢いを維持するためには良い方法となるでしょう。
4. どのチェーンで開始したいですか?
- イーサリアム(ETH)はブロックチェーン上の基本的なユーティリティアプリケーションの中で最も人気がありますが、文化的なニュアンスから新しいチェーンも登場しています。
- ソラナ(Solana)は、環境に配慮した設計と計算面での効率性が特長です。また、IBC(ブロックチェーン間通信)はその相互運用性と拡張性の高さで知られています。
- また、イーサリアム(ETH)の上に構築された多くのレイヤーもあります。例えば、アービトラム(Arbitrum)、オプティミズム(Optimism)、ポリゴン(Polygon)などは、取引コストを効率化したことで比較的安価ですが、通常イーサリアム(ETH)よりも取引量と市場露出が少ない傾向があります。ただ、提案に対する投票は手数料が発生するため、頻繁なガバナンスが必要なDAOには有益です。
- さらに比較をしたい方は、こちらの記事で確認できます。
- もし特定のチェーンに興味がある場合、通常、そのチェーンで活動している開発者やDAO運営者のコミュニティ/ ネットワークが存在しますので、積極的に知り合いになり、あなたのプロジェクトとの相性を確認するのがおすすめです。
様々な視点や考え方がありますが、これらの基本的な質問に対する回答を明確化することが大切です。どんなトークンを作成するかなど、プロジェクトを開始する際のフレームワークとして役立つはずです。
💡 公式にブロックチェーン上に記録されることなく、MVP(Minimum Viable Product)のプロトタイプを作成できるため、AKIYAのように、テストネットトークンやブロックチェーン上にないエコシステムポイントで遊んでみることも可能です。これにより、トークノミクス理論に深入りする前に、様々なインセンティブ構造を試してみたり、参加者からデータを収集したり、何が適しているかを見極めることができます。
トークンがあることによって、ウォレットのブロックチェーン上の資産保有が可能になります。これにより、DAOやweb3プロジェクトとの連携(潜在的なパートナーシップ、ホワイトリスティング、DAO同士の信頼構築など)が生まれます。つまり、web3教育プラットフォームであるRabbitholeからの認証を受けていれば、別の場所でのバウンティ割り当ての資格を自動的に得られる可能性があります。一方、コミュニティの成長に重点を置きたい場合、初期の環境をより迅速かつ反復的に試すことができる方法として、エコシステムポイントが挙げられます。
通常、このステップの終了時には、最も厳密な分析とリサーチが必要とされ、その結果と根拠は発表用のホワイトペーパーにまとめられます。
ステップ4:ツールのインフラを整える
DAOの立ち上げは通常、コミュニティチャットとして始まります。ただし、必要に応じてツールを導入することで、リミナルな組織がより構造化されたものに変わり、プロジェクトの成果を達成するために複数の関係者が動的に協力できるようになります。
先述のように、DAOはお互いの信頼関係が十分にないメンバーで構成されるため、ツールのインフラに対しては確固たる信頼が必要です。たとえば、新しく入ったメンバーは、DAOの管理者と個人的な関係を持っていないかもしれませんが、過去にタスク完了後に支払いが行われたという履歴がある(またはスマートコントラクトがタスクの完了後に暗号通貨をウォレットに自動的に送金するようプログラムされている)場合、彼らは自分のタスクに対して適切に支払いが行われるという信頼感が自然に形成されます。わかりやすく現代の例を挙げると、Uberの乗客は運転手のことを個人的に知っているわけではありませんが、プラットフォームに対する信頼があるため、安全に目的地に到着することができると確信しています。
💡 この点において、DAOのツールと基盤のインフラは、繋がりの層を形成します。最初の層では、新メンバーはシステムに対する信頼はあるものの、お互いに交流を深めて信頼関係や評判が築かれるまで時間がかかることもあります。この評判はプラットフォーム間で移行可能で、ウォレットの活動がブロックチェーン上で全ての人に透明であるため、コントリビューターやリーダーは以前の貢献に基づいて信頼性を証明するのが容易になります。
同様に、過去に詐欺行為を行った可能性のある悪質な参加者は、履歴のない新しいウォレットを作成しない限りは、恒久的にフラグ付けされる場合があります。別のDAOに貢献している場合は特に、こういった報酬とアイデンティティの管理は個々のデータと信頼性を維持するのに役立ちます。
さらに、重要な点として、ツールがDAO内の協調を妨げてしまってはなりません。DAOの一般的な落とし穴は、参加者たちがあまりにも早く自動化しようとすることです。自動化によって、人間同士の触れ合いやコミュニティの側面が失われ、DAOの活動自体が止まってしまう可能性があります。最初は、メンバーがプロジェクトのリズムに慣れるまで、必要最低限のツールにとどめておく方が望ましいでしょう。
以下の表に、DAOが異なる領域で使用する一般的なツールをリストアップしました:
日本での合法的なDAOに関する詳細情報を知りたい方は、日本のローカルDAOミーティングの議事録をチェックしてみてください。このようなイニシアチブたちは、日本におけるDAOの合法化に向けて積極的に活動しています。
ステップ5:DAOを定期的にメンテナンスする
最後に、DAOの立ち上げ後に見落とされがちな部分であるメンテナンスについて話しましょう。DAOは生きていて、成長し、進化する組織であり、そのメンバーが変わると変化するため、常にエネルギーを注ぐことが必要です。
💡 DAOは最終的にはより自律的になる可能性がありますが、依然として動的な組織であり、通常最初は中央集権的に始まります。つまり、適応が求められる時期が頻繁に訪れるということです。分散化は一度に起こるのではなく、時間の経過とともに段階的に進行します。
特に最初は、Twitch Plays Pokémonのように構造化が必要であり、さもないと状況は混沌とした状態に陥る可能性があります。Twitch Plays Pokémonは、Twitch上でボットがポケモンゲームをプレイするライブストリームが行われるというインターネット現象で、チャットルームの各メッセージがゲーム内のキーストロークにマッピングされるという構造となっています。構造が存在する場合、誰かがそれを定義する必要があります。
ここで重要なのは、理論的には多くのことが良いとされていますが、実際にはうまく機能しないこともあるということです。DAOの完璧な構造について哲学的な議論や仮説を立てることはできますが、その構造は主要有権者に大きく依存します。DAOはその性質上、貢献者の活発度合いはバラバラで、報酬がフルタイムの給与相当でない場合は尚更です。
💡 これに対応して、情報共有のための中央集権的なプラットフォームの必要性など、特定のニーズが生じます。一般的には、カルチャーや根本的なメカニズムの一貫性を常に保つことが重要です。それによってカルチャーに安定感が生まれ、同時に柔軟性も高まります。
DAOは、これらの行動を繰り返し行うための枠組みです。どのようなインセンティブ構造であれば長期的かつ持続可能な仕事を促進できるのか?に対する答えは、まだ私たちも見つかってはいません。長期的な持続可能性について議論する場合、一部の暗号通貨の世界で知られているハイプサイクル/衰退サイクルに巻き込まれないことが特に重要です。DAOはさまざまな方法で変化していくかもしれませんが、何度も進化を繰り返しても、信頼性を維持するためには社会的・公的な説明責任を果たすことが求められます。
まとめ
要約すると、DAOは従来組織の身軽なバージョンであり、ツールのインフラへの信頼と複数の異なるインセンティブ設計システムを試せる能力が必要です。最初の段階で設立にかかる時間が短いとしても、活動内容に即した法人格が必要となるケースことも多いため、本当にDAOが必要なのかどうかを立ち上げ前に十分に検討することが肝心です。
明確なミッションの定義とカルチャーの構築は、DAOの運用が成功するために非常に重要なタスクです。ミッションとカルチャーによって実際に導入されるインセンティブデザインが決定されるだけでなく、トークノミクスや分散の度合い、DAOの成功に必要なツールなど、他の意思決定にも影響を与えます。
ツール面では、協調の妨げになるものではなく、協調がより促進されるツールを選定することがポイントです。ツールを導入する際は、コントリビューターがまとまって参加できるようにゆっくりと、そしてしっかりとしたドキュメンテーションと共に導入するようにしましょう。ただ、DAOの一般的な落とし穴は、ツールがDAOのミッションを邪魔し、貢献活動を行う代わりにドキュメンテーションや情報収集により多くの時間を費やしてしまうことです。きちんとした協調こそがDAOのメタ構造の最優先事項であるべきということを忘れてはなりません。
同様に、DAOの構造はグループのビジョンと価値観を完全に反映しているのが理想であり、それを奪ってはいけません。これらの実験的な環境は、次のような問いについて考える際の手助けとなります:
- このための枠組みをどのように作り、より迅速にするにはどうすればいいのか?
- 構造をその構成員の意志を反映させる方法、彼らから抽出するのではなく、「人的リソースの現状:労働は商品としての価値」という方法はどうすればいいか?
- 商品としての仕事/労働を引き出すのではなく、いかにして構造体に有権者の意思を反映させるか
💡 しばしば個人は会社の意志を実現または推進するために搾取されることがあります。しかしDAOの場合は、コントリビューターが心理的にも財務的にも所有権を持つことができます。財務的なシェアをただ持っているというだけでなく、組織が成長するにつれて、コントリビューターが適切に報酬を受け取れる面白い仕組みなのです。
DAOを作成する際の障壁は、従来の企業設立よりもはるかに低く、既に、同じ志を持つ人々を結集し報酬を与える手段となっています。この点においては、分散型協調について一層深く掘り下げ、かつて組織の壁に隠れていたフレームワークを共同で探求・発見できる可能性があります。透明性、知識共有、チームワークの精神を持つことで、共通のミッションを持ったチームのオープンソースネットワークに誰でも貢献できます。
参加、ガバナンス、共同アクションこそがDAOの精神の中核です。そのため、web3の領域にすでに精通している人から初心者まで、すべての声が重要です。
私たちは、以下のコミュニティディスカッションに参加する場を提供しています。あなたの回答を追加したり、関連コメントに「#DALDAODiscussion」と引用ツイートをしたりして、ぜひお互いの視点を共有してみてください。
状況は常に変化しています。これは、会話に参加し、一緒にDAOの未来を形作るための招待状です。
ディスカッションの質問
- もしDAOを作るとしたら、そのミッションは何ですか?また、どのようなインセンティブ構造を試してみたいですか?
- 強力なカルチャーやブランド力を持つ組織として、どんな例がありますか?いくつか挙げてみてください。
Michelle Huang is a creative technologist and founder of Akiya Collective. She is a facilitator, researcher, and web3 consultant at DAL (michellehuang42@gmail.com)
Translation: Yudai Kachi & Madoka Tachibana
Illustration: Asuka Zoe Hayashi