ドリンクによるデモクラシー:Crypto Cafe & Barの店と客の垣根を超えた相互関係

色の変わるランプがドリンクメニューを決定したら、コミュニティにどのように影響するか

はじめに


「私達が建物を形作り、その後建物が私達を形作る。」 – ウィンストン・チャーチル


人々は毎日、建築家によって作られ、監修された空間に足を運びます。このプロセスは、多くの場合、、意図的にデザインされ、構築され、反復を経て、時には数ヶ月にわたるプロジェクトによって結晶化されます。それは、物理的な空間(建築家によって作られたギャラリー)、心理的な空間(映画監督によって作られた映画)、または感情的な空間(家族によって作られた家)など多岐に渡ります。

しかしながら、通りすがりの人が環境を大幅に変更できるような、特に他のお客様の体験に影響を与えられるような空間はあまりありません。

DALでは、物理的、またはデジタルなものにおいて、人間と空間が相互に作用する領域を探しています。空間は空虚なものではなく、限界性と可能性に満ちています。空間は地層であり、人々が通過していく一種の相互に作用する交換領域、構成要素に基づいて進化する可能性を持っています。私達は気づいていないかもしれませんが、そこには私たちが空間を創り、空間が私たちを創るという相互に働く効果があります。DALの実験的なデザインでは、この地層の粘性を高め、様々な相互に作用するポイントを表面化することで、それらをより直感的で明確なものにしています。私達の取り組みの一つであるCrypto Cafe & Barでは、来場者が共に遊べる砂場を作っています。私達はこの場所を、本質的には、来場者が共に探検し、形作ることを手伝うことができる、共同創造の世界であることを意図しています。

最近のイベントでは「空間はその場に居る人の動的な嗜好や価値観を反映することができるのか?」という問いへの答えを探しました。


パイロット実験


今年の3月、お客様を招待し、空間を変えてもらうという初めてのパイロット実験を試みました。この実験は2つの異なる形で行いました:

1. まず、Discordを通じて、オンライン・ガバナンス・イベントを開催しました。コミュニティメンバーに予算を持たせることで、パーティーの様々な要素 (音楽、料理の選択、アクティビティなど)をデザインしてもらい、メンバーは提案から投票の実施、採決まで行いました。



2. さらに、イベント当日は、参加型の空間におけるインタラクティブな実験をするため、LED装置を制作しました。これは参加者主導で決定される、変動するドリンクメニューになります。


インタラクションと変化が環境全体に波及するような空間を作るため、共有された空間で動的なガバナンスが起こるよう実験をデザインしました。主な動機の一つは、デジタルウォレットUXのような技術的な要素を経ることなく、来場者が物理的な空間においてガバナンス(クリプト世界の理念)と投票メカニズムを試すことができるようにすることでした。

私達は、ユーザーや参加者がガバナンスについてどのように考えているのか、そしてどの程度ガバナンスに興味を持って参加しているのかについてもっと理解したいと考えました。このデータは、Crypto Cafe & BarをDAOにする時にも役立つでしょう。


LED装置: 実験の概要


次のステップは、Barにおいて、どの部分を参加者がどのように変更するのが一番良いのかについて理解することでした。Barにおけるシェリングポイント、または自然と集まる場所は、参加者がドリンクを注文する場所であり、参加者がドリンクメニューに影響を与えられるよう、実験をデザインしました。本実験の概要は以下の通りです:


変動するドリンクメニュー:Barのメニューには、定番のドリンクである、ビール、ハイボール、ワインに加え、「スペシャル・イベント・ドリンク」というオプションがあります。このスペシャル・ドリンク・オプションは、以下の4種類、モスコミュール、チャイナブルー、テキーラサンライズ、ブラッディメアリーのうち1つが提供されます。この「アクティブ」なドリンクオプションは、完全に参加者の好み次第で4つのドリンクの中から1つに投票することで、最も投票数を集めたドリンクがBarで注文可能となります。


問題となったのは、参加者やバーテンダーは「どの時点で、どのドリンクがアクティブであると知ることができるのか?」でした。この問題を解決するべく、私達は最も人気のドリンクはどれかを反映する、色の変わるランプを作成しました。投票が行われる度に、ランプは各ドリンクに寄せられた票を集計し、最も多く投票数を獲得した勝者のドリンクの色が点灯します。

シナリオの例を挙げてみましょう:例えば、あなたがチャイナブルーを飲みたくてBarに入ったが、ランプの色が緑だった場合、バーテンダーはあなたにチャイナブルーを提供することができません。スペシャル・ドリンク・メニューをモスコミュールからチャイナブルーに変更するためには、ランプの色を青に変更する方法を見つけなければなりません。つまり、「青」が「緑」を上回るよう、十分な数の投票を得るため、投票者を説得する必要があります。

投票の仕組み:各参加者にはBarに入る際、投票に参加するための「トークン」として、近距離無線通信(NFC)チップが渡されます。このトークンを使い、青のドリンクオプション「チャイナブルー」に投票すると、そのカテゴリーの総投票数に加算され、ランプの色が青に変わる可能性があるかもしれません。しかし、ランプの色が変わらなかった場合、それは別のドリンクオプションの方が、投票したドリンクより総投票数を多く持っていることを意味します。

このような場合、チャイナブルーに投票する参加者が増えるまで待つか、バーを回って「勧誘」または「呼びかけ」をして票を移してもらうしか方法はありません(各参加者はそれぞれ一度しか投票することができませんが、選択したドリンクを変更することは何度でも可能です)。


記事の後半で詳しく説明しますが、私達が気づいたのは、参加と空間の状態変化を含むこの実験をすることで、参加者同士でインタラクションを増やすことができたということです。任意参加できるチームワークのある議論の対象を作ることで、より多くの人間関係が自然と形成され、既存の現実を別のものに変えるため、人々が協力する機会が生まれました。


使用した電子機器


装置を作成するために、様々な機器を接続しました。。使用した主な電子機器の概要は以下の通りです:

  • Raspberry Pi 4B: Pythonスクリプトを実行するための小型コンピュータで。これにより、LEDストリップからのインタラクティビティ、投票メカニズム、そして参加者の投票が保存されるデータベースへの接続を可能とします。
  • Raspberry Pi 7インチ タッチスクリーン: 投票体験中にプログラムの状況(投票待ち、投票期間開始、最高投票数オプション反映につき更新中)を参加者に伝えるために使用しました。
  • PN532:LFを可能とするNFCリーダー
  • 4バイトMifare NFCチップ: 投票に使用されるNFCチップ[仕様]
  • 7バイトNTAG215 NFCチップ: 投票に使用される NFC チップ
  • アーケードボタン(x4):参加者とインタラクト可能な投票インターフェース
  • USBゼロ遅延エンコーダー: 押されたアーケードボタンからのデータ入力をRaspberry Piに配線
  • 5V LED WS2812B: アドレス指定が可能なLEDであり、データ入力によりストリップライトの発光色を変更するプログラムが可能
  • スイッチング電源 (LRS-100-5): LEDに電力を供給
  • ESP32: 補助サポート/パワーコンバーター



LED装置の作成




LED装置のリード・デザイナーとして、私が最初に注目した部品は、NFCチップを素早く読み取り、投票体験をキックスタートさせることができる信頼性の高いNFCブリッジを作成することでした。私はいくつかの異なるマイクロコントローラー(Arduino Uno、ESP32、Raspberry Pi)、異なるリーダーとチップ(NFC、RFID、Mifare対NTAG2015チップ)を組み合わせ、さらに異なるプロトコル(UART、SPI、I2C)をテストしました。私は、試行錯誤の末、最も安定して動作するRaspberry PiとPN532の組み合わせを使用してブリッジを作成することに決めました。


NFCチップを認証し、データベースに追加した後、マスコットのプトちゃんをモチーフとしたNFCチップを作成しました。


バーに入ると、各参加者は投票に参加するため、この物理的な「トークン」を受け取ります。このような認証ステップを行うことで、認証されていない他のNFCチップが、ドリンク投票の結果に影響を与えることを防ぐことができます。

次に、アーケードボタンを追加し、USBコントローラーに配線しました。私は、ユーザーが入力(ボタンを押す)し、そのデータがプログラムに受信されるまでの待ち時間を知るためのテストをするべく、このセクションのためにPythonスクリプトを書きました。


ソフトウェア側では、Raspberry Piを点滅させ、初期設定を行い、SSH経由で接続した後、投票を集めるためのデータベース基盤のセットアップを開始しました。しかし結局、認証されたNFCチップの投票を集めるには、シンプルなAirtableを使用しました。これが、ランプが参照するデータベースとなり、各インタラクション後、ランプは各スペシャル・ドリンク・オプションの投票数をカウントし、最も投票された色を反映するよう、色を更新します。


ソフトウェアが完成した後、私はアーケードのボタンが反応するよう、LEDを配線しました。


最後に、全ての部品(コントローラー、LED、NFC機能、アーケードのボタン)を接続し、インタラクティブなプロトタイプを完成させました。


後、残っていた作業としては、仕上げと見栄えの調整でした。具体的には、3Dプリントでケースを作成、カスタム・パーソナル回路基板を設計、体験中にユーザーにフィードバックを与えるため、タッチスクリーンのメッセージを編集、LEDに面白いパターンとセレブレーションを作成、さらにいくつかの微調整を行いました。

ボタンとワイヤーのみでは薄っぺらく見えたため、この機会にボタンのケースもモデリングをして3Dプリントしました。


また、NFCリーダー、Raspberry Piに付属しているタッチスクリーンのためのカスタムケースも作成しました。ランプのデザインも、Crypto Cafe & Barのために特別にカスタムしました:


ワイヤーの試作が終わり、動作するMVPが完成したら、次にKiCadのPCBボードの最終バージョンの作成に移ることができました。ワイヤーとブレッドボードを使用する代わりに、基板上に明確な電気接続を作成することで、最終的な装置の全体的な見栄えは、より整頓され、完成されたものになります(ワイヤーが露出する代わりに)。


感想と結論


イベント中、参加者は皆、装置に夢中になっていました。参加者が何が起こっているのかを理解し始めると、参加者同士が協力することで投票を集約し、投票結果を変えるための活動する姿を複数回見ました。特定のドリンクを飲みたいからではなく、ランプの色が変わる様子を見るのが楽しいからという理由もあったようです。

私達は当初、この体験によって参加者同士の交流が変わることを期待していました。しかし、予想外だったのは、投票結果を変更するため、参加者を集めようとする参加者の数が多かったことです。また、誰かが注文する前に、ドリンクを再び変えようとする、友人に冗談を言って楽しむ参加者もいました。

特定のインタラクションデザインの選択肢の一つとして、参加者が投票を無制限に更新できるようにしました。各トークンを一票だけに対応させる(つまり、投票後はトークンが無効になる)と、イベント中のインタラクションの量を減少させると考えたからです。この実験では、各投票の更新をすることが許可されていたため、イベントの参加者で面識のない人同士でも、より多くの会話や交渉をする機会を持つことができました。

今後の実験に向けたもう一つ検討するべき点は、ドリンクを購入する度に投票用のトークンを追加で与えるべきかについてです。これにより、Barをよく利用する参加者は、環境に対して口出しするほどの影響力を持つことができます。


今後の実験


今後もこのようなインタラクティブな実験を更に続けていきたいと考えています。例えば、集合的なジュークボックスを介した音楽と照明の選択など、今回のドリンクメニュー以外にも雰囲気を形作る変数に影響を与えることができるような、インタラクティブな実験を作り続けていきたいと思っています。

また、Crypto Cafe & Barのメンバーからのインプットを1ヶ月に渡って受け付ける常設の装置を設置するなど、より長期的に空間に影響を与えるようなガバナンスのインプットを模索するのも面白いと考えました。より長期的な時間軸は持続的な変化をもたらすことから、空間は時間と共に継続的な感覚を継続して保つことができるようになります。例え、多くの参加者が意思決定の最中でなくても、運営メンバーの選択や嗜好に触れることができます。





Michelle Huang is an Experience Architect at DAL. She is creative technologist and founder of Akiya Collective. (michellehuang42@gmail.com)

Illustration: Asuka Zoe Hayashi
Edits: Janine Liberty



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