リモートワーク時代のチームリトリートデザイン

京都で行われたDAL初のリトリートで学んだこと

Digital Architecture Lab (DAL)を運営する際のチャレンジの一つは、共通の価値観や理解をシェアしたチームを作ることです。DALでは、東京、青森、ソウル、アメリカ、デジタルノマド生活を送る5つの地域から構成される15人のメンバーが、様々なプロジェクトに取り組んでいます。メンバーの多くはリモートで勤務しているため、対面で会話する機会は限られているのが現状です。オンラインミーティングでは業務の話題が中心となり、時間も限られているため、仕事に関係無い日常会話ができる機会は滅多にありません。また、オンラインミーティングの声のトーンや、チャットの文面でコミュニケーションに誤解が生じたこともありました。日常業務以外の時間が殆ど無いメンバーにとって、対面でのコミュニケーション不足は、DALの核となるアイデンティティをチーム内で共有出来ていないという現実を意味していたのです。

このような状況を変えるため、伊藤穰一と私は京都でオフラインのリトリートを開催することを4月に決定しました。リトリートには二つの目標がありました。1)チームメンバー同士の理解を深める、2)DALの哲学を共有し、DALのビジョンを具体的なアーキテクチャの変革へのアイデアにする為のブレインストーミングをすることです。チーム全員が集まる初めての機会だったので、DALの理念である「新しい感性をデザインする」を体験する機会にしたかったのです。それゆえ、このリトリートではワークショップ、アウェアネス、カジュアルなチーム交流、セルフケアなど、様々な異なる要素が必要だと考えました。

ワークショップは、HOSOOのフラッグシップストアで開催されました。「細尾」は、1688年に京都西陣(西陣織で有名な地域)にて織物業を創業しました。以来、何年にもわたり、織物業から着物のキュレーションへと事業を拡大してきました。私がHOSOOのストーリーに魅了される点は、彼らが伝統を現代に適応させながら継続して守ってきたという点です。これは、DALのビジョンとも共鳴すると考えています。


リモートワークが日常の一部となった今、チームビルディングに関する問題は、世界中の多くの人が共感するでしょう。ここでは、ワークショップのデザインについて説明し、ストラクチャーと成果の後ろにある私たちの意図についても詳しく解説します。この振り返りが企業やチーム向けの対面リトリートをデザインする際のヒントとなることを願っています。


How we designed the workshop


DALの精神は、多様性のあるチームが持つ「間」を大事にしています。チームは、プロバビリスティックプログラミングを提唱するメンバーから、テクノロジーに全くゆかりのないメンバーまで、さまざまなバックグラウンドを持つメンバーで構成されていて、私は、それぞれのユニークな物語がチームとして集まった時に「私たち」という力強い物語になると信じています。DALは個々のメンバーとそれぞれが持つ物語の多様性の上に、力を発揮してきたと確信しているので、メンバーがただ自分らしく存在することが評価される「間」を作ることが目的でした。

したがって、ワークショップの目的は、メンバーが個人的な物語を土台にしたチームの一員であることがどのようなものかを体験し、それをDALのミッションに落とし込むことでした。Akiya DAOを運営し、素晴らしいコミュニティビルダーでもあるMichelle Huang(そしてとっても魅力的な人です!)が、ワークショップをデザインし、進行を担当してくれました。


ワークショップは3時間半で、アイスブレイクを除いて3つのパートで構成されました。1)自己への探求、2)社会への探求、そして、3)DALへの探求です。自然な進行となるよう、各パートが前のパートに基づいて構成され、何を学び、どこに向かっているかを常に共通認識として持てるような構成にしました。

0) Icebreaker

アイスブレイクはじゃんけんです。じゃんけんをした相手とペアを組み、負けた人は次のラウンドで勝った人を応援するというルールでゲームをしました。ちなみに私が優勝です✌️

1) Exploration of self

最初のセッションでは、チームメンバーにペアを組んで意見交換をしてもらいました。

  1. 参加者は異なる相手と3ラウンドの会話をします。個人的な経験や、尊重する価値観をシェアできるようなオープンな会話を創り出すことが目的です。トピックは下記の通りです:
    • 人のすごいと思うところや、尊敬する部分はどんなところですか?
    • 今までにあなたの価値観を変えた出来事について教えてください。
    • あなたの人生の哲学は何ですか?

2. その後、参加者は会話を振り返りながら、自分の中にある3つのキーとなる価値観を書き留めます。

2) Exploration of Society

私たちの個人的なストーリーをさらに発展させるため、次は社会に焦点を当て、テクノロジーの肯定的および否定的な影響を具体的に取り上げた社会の価値観と昨今の問題に焦点を当てました。なぜなら、私たちが「digital architecture lab」だからです。

まず初めに、コンテンツをリードするJosephが、私たちの生活に根付いているテクノロジーを認識する重要性と、DALがデザインしたい「digital sensibility」がどのように関連するかについて、5分間の講義を行いました。


その後、2つ目のブレイクアウトセッションに入りました。

  1. 「全く同意しない」「中立」「強く同意する」という3つのカテゴリーのポスターを壁に貼り、それぞれの質問について自分の意見に最も近い立場に移動してもらうようお願いしました。
  2. 正反対の意見を持つメンバーが、質問について自分の意見を発表し、議論します。
  3. 残りのメンバーはその意見を聞きながら、議論が進展するにつれて、自分の意見が変化した場合は、当初の意見と変更しても良いものとしました。

セッションの目的のために、敢えて意見が分かれるであろうトピックを選びました。

  • AIでできる限り多くの労働力を置き換えるべきである。
  • すべてを非中央集権的にすべきである。
  • セキュリティ対策を強化するために、監視やデータ収集の増加など、いくらかのプライバシーを犠牲にすることはやむをえない。
  • 政府は政治的不安や危機の時にインターネットを遮断したり、アクセスを制限したりする権限を持つべきである。
  • 神経技術を使用して、人間の能力を自然の限界を超えて向上させることは倫理的である。
  • 避けられない事故の場合、自動運転車は生死を決定すべきである。
  • 検索エンジンがユーザーの従来の行動に基づき検索結果を操作することは倫理的である。
  • 法執行機関は調査を支援するためにエンドツーエンドの暗号を解読する能力を持つべきである。
  • AIシステムが一定の意識や知能に達した場合、権利や法的人格を持つべきであるか?
  • ソーシャルメディアプラットフォームはユーザーの精神的健康に与える影響について責任を負うべきであるか?

4. クロージングの前に、参加者は再び大切な価値観を3つ書きます。但し今回は社会に関連する価値観です。


「自己の価値」および「社会の価値」を表す2つの大きな円を含む図を配り、各メンバーにそれぞれの価値観を配置してもらいました


5. 「自己の価値」と「社会の価値」が重なる場所をマークします。これにより、自身の価値観が社会の期待と一致している部分、一致していない部分を見ることができます。

3) Exploration of DAL

では、自己と社会に関する価値観を特定できたので、これらを具体的なDALの目標へと落とし込みましょう。個人の価値観と新たな視点をどのように活かせるか?チームで創る具体的な成果にDALの精神をどのように反映させることが出来るのか?これらの質問を念頭に置いて、以下のエクササイズに取り組みました。

  1. まず、4つの質問に答えます。 
    • DALが取り組むべきプロジェクトや取り組みは何か?
    • DALが最も優先すべき事と、世の中へのメッセージは何か?
    • ポッドキャストやDALのコンテンツとして、今後見たいものは何か?
    • DALの感性をどのように世の中に伝えることが出来るか?またDALの感性とは何か?
  2. 回答をポストイットに書き、該当するホワイトボードのセクションに貼ります。
  3. 各メンバーが優先順位が高いと思うアイデアに、星のステッカーを貼付し投票します。


「なるほど!」と思った瞬間でした。様々な個人の価値観が社会にとっては重要で、DALを通じてこれらを実現出来るということが見えた瞬間だったからです。


ホワイトボードを見ると、目を惹くアイデアがいくつかありました。例えば、対面で集まる機会を増やす、コンテンツをもっと作る、これらのアイデアを具体的なプロジェクトに変えるためのOKRsを設定するなどです。これは、まだ披露していない進行中のプロジェクトがたくさんあるからかもしれません。また、世の中には美学が必要という意見も共通していました。

これで1日目のワークショップは終了です!


Yoga – mindfulness & importance of moving our body

昨年から私を指導しているヨガセラピストの平岡充乃介さんを講師に招きました。彼のヨガへのアプローチは、正しいバランスを見つけるという理念で、例えば、私がヨガのポーズが難しくて覚えられない時に「どうすれば出来るようになりますか?」と尋ねると、自分が最もリラックスできるポーズを見つけると良いとアドバイスし、改めて、オリジナリティ、個性、快適さが重要であることを教えてくれました。体幹や筋肉だけでなく、内面の強さも鍛えてくれています。

70分間のストレッチとヨガのセッションを行い、その後20分間は、呼吸のセッションでした。片方の鼻から息を吸い、もう片方の鼻から息を吐く練習をし、鼻を塞がないで、空気が出入りする感覚を意識しながら行います。呼吸を通して生きている感覚を持ち、改めて今に感謝する時間となりました。 


メンバーのヨガのレベルは様々でしたが、セッション後に平岡さんが、DALのメンバーがとても「エリート」で感銘を受けたと私に話してくれました。オンとオフ(おそらく集中力を意味しています)の切り替えが上手く、自身のペースで動きを最大限効果的に出来ていたとのことです。


Takeaways

メンバーの個性や性格は異なるものの、このリトリートを通してチームメンバーが驚くほどにチームとして結束するのを目の当たりにして、とても嬉しかったです。驚いたことに、レストランでは最も賑やかなグループであり、チーム内で楽しい環境を育むことがいかに大切か、そんな空間こそが創造性が花開く場所なんだということを、改めて思い出しました。

京都にいる間、それぞれが自分たちの価値観を振り返り、じゃんけんをしたり、ヨガをしたり、旅を楽しんだり、LPプレーヤーで音楽を聴いたり。メンバーはリラックスして過ごし、チームに属していると改めて感じることが出来たと思います。このリトリートを通じて、チームは偶然と好奇心を共有しました。ソウルから遥々参加してくれたチームメンバーの一人は、このリトリートは「チームスピリットを取り戻すのに役立った」と話してくれました。


リトリートでの経験は間違いなく私にとって大きなモチベーションとなりました。今、私たちはリトリートでのアイデアをどのように実現し、アクションへ変えていくかを模索しています。また、OKR(Objective and Key Results)の必要性も強く感じ、OKRにより、私等の考えがどのようにビジョンに組み込まれているかを把握できる仕組みを作りたいと考えています。さらに、恵比寿のオフィスを更にフレンドリーでくつろげる空間に変え、カジュアルにチームメンバーが集まったり話せるような場所にしたいと思います。

デジタルガレージにとって、このリトリートが従業員の満足度に投資する重要性について明らかにしてくれることを願っています。従業員は、生産性の向上のみに価値を見出されるべきではありません。自分自身の幸せのため個人のウェルビーイングを尊重する社会が私たちには必要です。私たちは単なるリソースではありません。本質的な価値を持つ個人として尊重されるべきなのです。リトリートの参加者にはこのメッセージが伝わっただけでなく、経験してもらえたと信じています。そして、デジタルガレージ内でさらに「DigitALL」の取り組みが促進されることを願っています。


最後に、このリトリートを通して、対面のコミュニケーションの重要性を改めて感じました。決してデジタル化することの出来ない、人間らしい価値がそこにはあるのです!




Daum Kim is the Deputy Architect at DAL (daum@dalab.xyz)

Translation: Madoka Tachibana

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