DAOの事例:Akiya Collective

DAOの世界へようこそ (Part. 3)

はじめに

このシリーズでは、DAO(分散型自律組織)が実用的な構造である理由や、DAOの作り方について取り上げてきました。この記事では、現在実際に運営されているDAOの事例として、「Akiya Collective(アキヤ・コレクティブ)」の仕組みについて詳しく解説します。

簡単に説明すると、Akiya Collectiveは、現在日本で深刻化する「空き家」問題への対応策として始まった取り組みです。2030年代に、日本の住宅の約3分の1が空き家になると言われており、NPO法人であるAkiya Collectiveは、これらの空き家の一部を再活用し、地元住民とグローバル市民の相互参加を通じて、住宅や設備の分散型のネットワーク化を目指しています。これらの住居は、地元住民との架け橋となり、共生的かつ連携的な文化交流・地方活性化を促進します。

主な提供内容

(1) 住宅と居住環境の整備

Akiya Collectiveは、コミュニティが協力して地元の環境と調和した空間を作るための居住空間を提供しています。これらの居住空間はコミュニティによって、コミュニティのために、提供され、クラウドファンディングを通じて、創り上げられます。その目的は、オルタナティブな経済を探求し、地元住民と共同生活し、人々のの幸福のための体験的な空間や居住環境を構築するネットワークを育てることです。

(2) オープンソースの運営

住宅と居住環境の整備は、人々が空間を構築し、その空間が居住者にインスピレーションを与えるという好循環を形成します。このプロジェクトは、単に空き家を購入するためだけでなく、空きスペースを具現化された芸術的な空間に変える、持続可能なモデル構築のためのプロジェクトで、時間とともに実証され、再現可能なオープンソースのフレームワークへと成長していくでしょう。


Akiya Collectiveの始まりと進化

Akiya Collectiveは、友人と一緒に日本の田舎でクリエイティブな休暇を過ごしながら、空間を創り直したいという夢から始まりました。空き家の増加と共に、日本で家を購入することに魅力を感じる人も増えたように思います。購入の基準は、自然の中にあること、芸術的な活動を探求できるスペースがあること、生活費が低く抑えられること、そして理想を具現化し共有されたキャンバスとして空間を変化・改装できることでした。

私自身、リサーチと購入のプロセスを経験する中で、空き家を購入することには予想以上に多くの実務上の課題があることに気付きました。信頼できる不動産業者や法律家を見つけること、日本で署名に必要な判子を取得すること、行政との関係を築くことなどが主な例として挙げられます。

初めは、将来空き家のオーナーになる可能性のある少人数のグループが情報共有のために集まり、私たちはオンラインで自分たちのプロセスを文書化し始めましたが、当時はそのような情報源が存在しなかったため、それを空き家の購入に関心がある人なら誰もが閲覧できる中心的なリソースとして提供しました。自然に参加者が増え、自らの経験や学びから貢献したいと集まった現空き家のオーナーから、仕組みやプロセスを理解したい空き家に興味を持つ人々まで、多岐にわたるメンバーが集まりました。現在では、このコミュニティは1,000人を超える規模にまで成長しています。

多くのオーナー候補や現オーナーがこのコミュニティに集まることで、グループは単なる情報源から、共同オーナーを探したり、空き家プロジェクトに一緒に取り組む機会を提供するまでに発展しました。空き家を個人で購入することも可能でしたが、1年のうち一時的にしか日本にいないオーナーもいることから、共同所有も魅力的に映り始めました。どんな家でもメンテナンスは必要で、空き家よりも住人が常にいる家の方が、はるかに手入れが行き届きます。

人々が共通の目標と使命を持って集まると、社会的なレベル(異なる場所での地域の繋がり、コミュニティとの共同生活)だけでなく、財政的なレベル(ボランティアの発掘、共有リソースの管理、互いを補い合うスキルの交換など)でも、より大きな価値が生まれます。


DAOの誕生

同時に、コーディネーションに関する疑問も生まれ始めました。例えば、「金銭的な貢献と、家の改築や管理に費やす時間との比重はどうなっているのか?」「どんなことにもっとインセンティブを与えるべきか?」「一緒に不動産を購入するには、パートナーシップレベルに近い、より親密な関係が必要とされるため、インターネット上の見知らぬ人たちと家を共同管理・共同運営することは実現可能なのだろうか?」などです。

これらの疑問の多く(特に運営面と財政的な貢献の報酬に関するもの)は、web3のデジタル世界におけるガバナンスがどのように行われるかに似ています。最初の目標は特にDAOを作ることではありませんでしたが、多くの要素が持ち込まれました。

例えば、web3は次のことを可能にします:

  • コネクションとコーディネーションの新しい方法
  • 公共財の保存
  • 主権+集団所有権
  • 信頼+良好な隣人関係


そのため、web3フレームワークの精神に共鳴し、一連の作業の調整やタスクへの価値付けから、学習の文書化を分散化するまで、さまざまな試みが行われました。この実験的な段階では、このプロジェクトのためにデジタル面の仮説を実際にテストするために、助成金を集め始めました。その結果、異なる地域で居住プログラムを開始し、最初の家を購入するための資金を得ることができました。

このプロジェクトはweb3フレームワークから多くのインスピレーションを受けていますが、様々な場面で下される決断はケースバイケースだということには注意が必要です。例えば、多くのDAOがガバナンスにトークンを使用していますが、Akiya Collectiveはまだトークンを持っていない非典型的なDAOです。このコミュニティは、より金銭的なインセンティブによって人々を引き付ける前に、純粋に興味を持った人々を見つけるため、同じ価値観を強く共有する集団から始めました。このような時間をかけて成長するコミュニティの形成は、デジタル空間だけでなく、リアルな世界において行われるプロジェクトに特に適しています。


関係構築の重視

実際のところ、家の購入手続きは意外に簡単であり、より難しい部分は、コミュニティの中で上手く溶け込むこと(そして本当の意味で歓迎されること)であることが分かりました。

立地、広さ、費用などの指標から見て、“完璧な家”をオンラインで見つけることは可能ですが、プロジェクトの長期的な成功には、私たちの取り組みを地元のパートナーとして支えてくれるコミュニティや地域を見つけることの方がより重要であることは間違いありません。最適解を見出すためには、ネットリサーチだけでは仮説が立てられないため、実際にその地域を訪れて時間を過ごすことが重要でした。

今年の初め、Akiya Collectiveは日本の地方で「ミニ・レジデンシー」という企画を開催しました。目的としては、地元の文化をより深く理解し、その地域との関係を築き、借りた家を拠点として近隣の他の空き家(オンライン上で掲載されていないような物件)を探索することでした。長野での2回目のレジデンシーの中で、目標としていた最初のコミュニティハウスが見つかり、現在、購入手続きを進めています。また、空き家の発見と改装には地元の人々が欠かせないため、地元のメンバー向けのインセンティブ構築についても考え始めています。

購入手続きを進め、家を改装し、新しい隣人との友情を育みながら、私たちのオープンソースのプレイブックを更新していく予定です。新しい経験に出会うたびに、私たちのメンバーはこの生きたドキュメントを継続的に改訂し、空き家を保有する夢を他の誰かが実現しやすくするための包括的なガイドにしていきます。これには、私たちが拠点を置く未掲載の空き家、ネットワーク内の異なる地域の管理者が地元のアンバサダーとして活動すること、そして地域ごとに利用可能な行政手当や助成金などの財政支援も含まれます。


コミュニティの相乗効果

このプロジェクトは元々、空き家を購入する際の手続きをサポートする情報収集源として始まりましたが、プロジェクトを取り巻くコミュニティ自体がより大きな魅力となりました。このコミュニティは、メンバーが共同オーナーを見つけたり、共同生活をする相手を見つけたりする手助けとなり、また、レジデンシーの企画は、空き家の購入に興味を持つ人が日本の田舎暮らしの雰囲気を体験できる機会を与えました。

将来的には、このネットワークはリノベーションのためのクラウドファンディングの手段としても活用できるでしょう。 無償の家賃と引き換えに、スペースのデザインを手伝ってくれるクリエイターが必要ですか?あるいは、あなたのリノベーションコンセプトを実現するために追加資金が必要で、完成したら寄付者があなたの空き家を体験、または宿泊してもらったりしたいですか?Akiya Collectiveであれば自ら探す必要はありません!

DAOモデルは、基本的にテクノロジーを活用した物々交換を促進することができます。そしてAkiya Collectiveがこれらの交換を可能にするネットワークとして機能します。私たちは、ネットワークを通じた審査により、価値観を共有するコミュニティでの居場所と所有権を提供する「デジタル市民権」のリリースを計画しています。 信頼できるメンバーや声を通じて、ガバナンスを地理的に分散させ、最高の住宅コンセプトを実現するためのプランを投票で決めることができます。

特にリモートワークとデジタルネットワークの新時代では、購入、共同生活、リノベーションに関する実証データを収集する方法が増える可能性があります。空き家に関する成功談や失敗談を全体で共有することで、私たちのネットワーク内だけでなく、共同の物件購入やリノベーションに関心のある他のグループにも、学びやリソースが広めることができます。

🤝 Akiya Collectiveは、共通の価値観を持つコミュニティが実験し、改善し、発展するための物理的およびデジタルのインフラを提供し、活用されていない環境を活性化させるための基盤を築きます。

私たちの取り組みは、エコシステムのエコシステムを表しており、各地域での文化的および経済的な発展、持続可能性、独立性を促進するために、アメリカの連邦・州の憲章や法令からインスピレーションを得ています。


上の画像では、A・R・Fの空き家はサブDAOを表しています。 メインDAOであるAkiya Collectiveは、コストシナジーや社会的リソースを共有することで、運営パートナーとしてサブDAOをサポートし、ネットワーク全体を通じてアクセス可能な、継続的に進化するプレイブックのインターフェースとして機能します。 また、Akiya Collectiveのトレジャリーによって「リノベーション・ファンド」も管理されており、市民は、私たちのネットワーク内でも、私たちが住む地域でも、どの空き家が追加支援を最も必要としているかに投票することができます。

ではここで、それぞれのサブDAOが何を表しているのかを詳しく見ていきましょう。

各サブDAO(または購入された空き家)は、地域や集団の興味関心に基づいた独自のメンバーシップ、ガバナンス、経済、サブカルチャーを持つことで、資金を自己調達することも可能です。


各集団のテーマはさまざまですが、コミュニティメンバーは自身の学習カリキュラムや芸術体験/インスタレーションを提案し、家でホストすることができます。これらのレジデンシーはコミュニティによって共同で作成され、ネットワーク内で投票され、プロジェクトが十分な支持を得れば、資金が提供されるように設計されています。このような、生産的な共同体験を促進し進化するプレイブックを備えたネットワークは、自己発信者やコミュニティビルダーが自身のノード(拠点)を構築し既存のエコシステムに参加する機会を提供します。

つまり、Akiya Collectiveは、デジタルと物理の両方のインフラを備えたネットワークで新しいプログラムを支援することにより、コミュニティ活動を開始する際の障害を減らすことを目指しています。共有リソースを通じてコミュニティメンバーの購入を支援することで、このプロジェクトは財産管理の新たな機会を創出し、それに伴いオンラインコミュニティの拡大にも貢献します。


より多くのステークホルダーが関わるweb3

ほとんどの組織は、出資者や時には貢献者によってガバナンスされていますが、ほとんどの場合、より広いコミュニティに存在するステークホルダー(たとえば、私たちの隣人など)は忘れ去られがちです。ただ、Akiya Collectiveでは、そのようなステークホルダーもガバナンスに参加しています。すなわち、このプロジェクトは、地元住民が空き家のガバナンス方法について発言する機会を与えるよう、意図的に設計しているのです。


強力なOBネットワークの構築

コホート・プログラム(1~3ヶ月の滞在)を手伝ったり体験したメンバーは、記念品としてメンバーシップを受け取ります。これはガバナンスツールとしての二重の役割を果たすもので、その家を共同所有し、将来的な進化を共同管理する方法です。長期にわたるエンゲージメントを促進するweb3のフレームワークを活用することで、文化や友情がその場だけでなくメンバーが退去した後も継続する、より長期的なモデルを構築することができます。

共に同じ空間に住み、コミュニティの改善を行い、似たようなイベント行事に参加したという共有体験は、コミュニティが成長し続け、何度も集まるきっかけとなります。



まとめ

Akiya Collectiveは、現実逃避や、全く新しい都市や町を建設することが目的ではありません。それは再生可能な共生、つまり、すでにそこにあるコミュニティとの健全な調和と共存です。日本では、地元の交流、隣人との関係、コミュニティの意思を尊重することが非常に重視されています。

このプロジェクトは、DAOの価値観を体現することを目指しています。つまり、周囲のコミュニティを巻き込んで一緒に何かを作る公共の場での創造作業、そして既存のメカニズム(作業→お金→購入)から、新しいインセンティブの仕組み(仕事→内部エコシステムのポイント→家に滞在する時間)への転換です。

Akiya Collectiveは単に一緒に家をリノベーションするだけではありません。持続可能な価値創造の実践、一致した信念とコミュニティの力、そしてこの哲学を人生の他の領域にも応用することなのです。

最終的に、私たちが答えを求めている問いは、自然の恩恵を受け、コミュニティの支援を得て、実験し、失敗し、持続できる自由が与えられた場合、私たちは新しい存在のパラダイム(模範)を設計できるのか、ということです。このプロジェクトに取り組めば取り組むほど、リモートワークやギグエコノミーの台頭によって注目が増している「仕事の未来」だけでなく、「モノを作る」ために互いに協力し合うことも重要だと気づきました。 それは「生きることの未来」であり、自分と社会の調和であり、健全な芸術と人間関係を共に創造することなのです。

では実際、集団の願望を効果的に反映するための適切な手段を導入し、その夢を実現するという役割の他に、DAOはどのような目的を果たすべきなのでしょうか?




Michelle Huang is a creative technologist and founder of Akiya Collective. She is a facilitator, researcher, and web3 consultant at DAL (michellehuang42@gmail.com)

Illustration: Asuka Zoe Hayashi
Edits: Janine Liberty & Joseph Park

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