会話の場としての空間:Crypto Cafe & Bar

コミュニティとしての環境づくり

最近私は、インタラクティブな空間に興味を持つようになりました。技術的なインタフェースの設計やナビゲーションをどのように改善するかといった問いに取り組む、人間とコンピュータのインタラクションに興味を持ったことがきっかけでした。最初はコンピューター上の空間に焦点を当て、ゼッテルカステン法を探求し、デジタルガーデンに手を入れました。そしてこの興味は、次第に様々な方向に広がっていきながら現実の世界に根を張り、デジタルインターフェースを超えた物理的な物によって確実なものとなりました。
私は、自分が使うツールがアイデアの表現方法に影響を与えることに気づきました(参照:具体的認知)。例えば、ペンと紙を使うと、コンピューター上で抽象的なアイデアをタイプするよりも、より視覚的なアイデアを思いつくことができます。この時期、私は様々な地域を放浪しており、異なる環境に身を置くことが私の考え方にも影響を与えることにも気付きました。例えば、アジアにいると、日常の通行人に対する気遣いや気づきが、アメリカにいる時と比べてわずかに高まります。
カール・ユングはかつて「2つの人格が出会うことは、2つの化学物質が接触するのと同じであり、反応があれば両者が変容する」と言いました。人々がお互いに影響を与え合うのと同じように、しばしば過小評価される変容のベクトルは「環境」です。人が人を変え、空間は人々が「機能的」や「美しい」と考えるものを高度に精製された形に凝縮したものならば、そのような空間も不思議な力を持っているはずです。最近私は、環境の中を歩いていることは、その環境をデザインした人と会話することに似ていると考えるようになりました。空間とは、本質的には「意図」が「形」に結晶化したものであり、その形とは、人々が歩き回り、生活し、時には変化させることができるものなのです。


「環境」とは物理的な場所であるため、私たちよりも長い時間軸で機能します。改善のための私たちの会話や取り組みに気づく人はほとんどいません。しかし、時には偶然私たちの心と調和する環境に入ると、何かがピンときて驚きとインスピレーションを受けることがあります。
その驚きを与える空間の要素を完全に理解しているわけではありませんが、ある種の具現化された美意識や、内在的な帰属意識や一体感が関係していると考えています。私がそう感じさせられた場所は、いつも普遍的な愛とエゴのなさ、一人の人間を超える何かの要素を含んでいました。そんな空間に耳を澄ますと、「いつも誰かがあなたを見ています。あなたは一人ではありません。ここにいても大丈夫ですよ」と優しく言ってくれているような気がします。この感覚は、健全かつ機能しているコミュニティの中に包み込まれた感覚と同じです。
では、どのすればコミュニティのような空間を作ることができるのでしょうか?私たちがキュレーションされた環境について考えるとき、特に自分の家という文脈で考えた場合、そのキュレーションは非常に個人的なものです。通常、一つの特徴的なものや美的な好みが目立ち、まるで誰かの世界の片隅に入り込んだように感じます。しかし、集合的な空間形成によって、この親近感を確実に生み出すことに近づけるのでしょうか?
ここで、『Crypto Cafe & Bar』が登場します(以下『Crypto Bar』)。最初は、真っ白な光沢のあるアルミホイルと反射する壁だけのスペースから始まりましたが、メニューや装飾などは参加者が自ら決めることができ、その空白があることによって、それぞれが思うがままに自分の色を出せる機会になるのです。私たちのうちの1人が考え得るものより、もっと大きな何かが生まれるための”意図の種”を植えました。そして、その肥料はコミュニティです。


サンドボックス環境としてのCrypto Bar


Crypto Barの目標の一つは、メンバーが集まる場所としてだけでなく、対話のためのサンドボックスとなることです。優れたコミュニティは帰属意識を生み出しますが、この感覚を物理的な空間に広げることは、Crypto Barの真の挑戦です。


環境の要因に対するメンバーの投票権を許可したり、異なるバックグラウンドを持つ人々が交流できるイベントを主催したり、来店者にリピートいただくためのメンバーシップを実験してみたり、といったいくつかの仮説を持っています。これらはすべて、Crypto Barファミリーの一員となる可能性のある皆さんに、共に形成していただきたい大きな実験の一部です。
そして、Crypto Barは、”Crypto” Barという名前から分かるように、このコミュニティの中心となるテーマの一つは、投機目的を超えた暗号資産の探求です。私たちは、初心者がこの領域に参入するための教育的でインタラクティブな方法や、玄人が新しい方法で体験できるいくつかの方法をデザインしています。結局のところ、web3の魔法は、人々がより協力できるようにするための技術を創り出し、開発することなのですが、時には(皮肉にも)技術的な要素が邪魔をすることがあります以前の記事で、ブロックチェーンは、集合的無意識をプログラムする最も近い技術だと述べました。実際、それに近づくことさえ、テクノロジーは関係なくすべての人々の参加を必要とします。
余談ですが、私の重要な学びの哲学は、”実践”です。協調、インセンティブ設計、分散化など、web3に関わる意味の大部分が、”参加する”という核となる筋肉を鍛えることであるならば、私たちはクリエイティブになれます。これは、以前書いたように私が活発的に構築している別のDAO「Akiya Collective」の運営においても、私の倫理観の核となっています。web3について詳しくない人や最近興味を持った人でも参加できるようにするために、Crypto Barでは、ウォレットの作成やトークンの操作などのレクチャー的なイベントも開催しますが、これはクリプトに興味を持った方々が新しいメンタルモデルをまず試して、それが自分に合っているかどうかを確かめることを妨ぐべきではありません。
この点に関して言えば、私たちは再帰性を楽しんでいます。この空間では、学習者は参加を通じて学習し、彼らの参加は学習環境を二重に造形することになります。これが参加型デザインです。
Crypto Barへようこそ。


パイロット実験

私たちは、2024年3月に予定されているCrypto Barでのパイロット実験の計画を進めています。
エクスペリエンス・アーキテクトとして私は、人々がウォレットを作成しなければならないような技術的な詳細にあまり触れることなく、web3のガバナンスとコーディネーションの美しさを体験できるイベントを設計したいという思いがありました。物理的な空間があることによって、会場での投票によるライブフィードバックが可能になるため、純粋なデジタルweb3界では実現できない、全く違う機会となるはずです。
こうして、自分自身の声と好みの力をすぐに感じられる、シンプルで楽しい実験のアイデアが生まれました。バーのドリンクメニューに関する投票権を利用者に与えるというアイデアは、この最たる例です。
ぜひご自身で確認していただきたいのであまり詳細は明かしませんが、私たちは、バーで注文できるドリンクの種類が、利用者の好みに応じて動的に変化する仕組みを設計しています。これは、web3の世界におけるガバナンス提案と、スマートコントラクトを介したウォレットトークンによる投票に似たものです。


Crypto BarのDAOモデルを探求する中で、試してみたいことがたくさんあります。例えば、人々がガバナンスをどれだけ受け入れるのか、どのような変化に人々は最も興味を持つかなどです。その際は、これらの基本的な嗜好を、オンボーディングで生じる技術的な問題と切り離して考えることが重要です。上手く設計された実験はすべて、混乱を招く変数をできる限り排除しています。もちろん、完璧な実験を設計することはできませんが、現実世界で何かを実践することの美しさがあります。嗜好を正確に反映するインセンティブシステムを設計し、コーディングする前に、コミュニティがガバナンスをどのようにして直感的に行っているのかについて、知りたいことがたくさんあります。
要するに、これらの実験の目的は、人々がどのように協調できるかを学び、そして将来のメンバーに投票の練習をしてもらうことです。私が強調しすぎることはできませんが、これはブロックチェーンに反映される、変更が難しい特定のインセンティブスタックを確立する前には非常に重要です。
集団がどのように運営され機能しているかという原始的なルールを理解するためには、観察することが重要です。しかし、観察と推論には、上手く設計されたフィードバックループが必要です。これが最初の実験であることを考慮すると、より短いフィードバックサイクルを作成したいと考えています。ユーザーの入力と応答の間の時間が長いほど、直接的な因果関係を特定するのが難しくなります。この場合、メニューの更新や投票結果の集計に時間がかかりすぎると、人々は興味を失ったり、環境に直接的な影響を与えられないと感じるかもしれません。
短いフィードバックループは重要です。自分が投票することで、自分の好みがすぐに現実世界の変化に反映されることは非常にパワフルなことです。これは存在自体のリマインダーであり、自分の好みが重要であること、そして自分自身も他の人々の存在を直接的に形作ることができることを示しています。それはまるで魔法のようなことで、何かを存在させようとする行為とも言えます。


変幻自在の科学

Crypto Barは、デジタルとフィジカルのガバナンスがどのように機能するか、そしてそれらが互いにどのように影響し合い、あるいは異なるかについて理解を深める絶好の機会を提供してくれます。特にAIやその他の技術の進歩に伴い、デジタルと物理的な世界はますます複雑に絡み合っており、デジタル空間で構築されたアイデアや事実は、今や物理的な世界の捉え方や関わり方に直接的な影響を与えています。
私たちはCrypto Barを利用して、このデジタル×フィジカルの関係の裏に隠れているものをより深く探求し、マトリックスの中で不具合を起こし始めるポイントを明らかにしたいと考えています。私たちは基本的に、人々が遊びながら実験ができるサンドボックスを提供しているのです。デジタルの世界は時に歪んだ視点を示す一方で、物理的な場所があることにより、人間が直感的に互いにどのように交流するかの核心に触れることができます。
これは分散型の科学実験であると同時に、好奇心旺盛な人々が集まり、共同で現実を形作る社会環境でもあります。Crypto Barは一つの”環境”でもあり、私たちが設定できる設計条件の”初期セット”でもありますが、結局のところ、完璧な予測や設計が不可能なパズルを完成させるのは人々であり、彼らの関わり合いなのです。このような予測不可能性は、自然的かつ発展していく目新しさにつながり、人生をより面白くしてくれます。無限に異なる組み合わせが生まれる可能性がありますが、この世界では、行動をするということは、自分のためにも他人のためにも、支援者が現実として見たい世界の形に投票することを意味します。では、存在し得るすべての世界の中で、私たちはどのような世界を一緒に作りたいでしょうか?
それを考えるために、まずはシンプルに、乾杯しましょう。そして、一緒に飲みながら私たちの理想の現実を議論し、実現させましょう。行く場所はお分かりですよね…?では、そこでお会いしましょう!




Michelle Huang is an Experience Architect at DAL. She is creative technologist and founder of Akiya Collective. (michellehuang42@gmail.com)

Illustration: Asuka Zoe Hayashi
Edits: Janine Liberty
Translation: Madoka Tachibana & Yudai Kachi

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